本屋の新聞

2008年6月15日発行 本屋の新聞 70号 WEB版 (本の価格はすべて税込みです)

    

------------ほどほどに・・・

『のぼうの城』 和田竜‖著 小学館 1,575円
『古城の風景T』宮城谷昌光‖著 新潮文庫 580円
『奥三河物語』鈴木冨美夫‖著 樹林舎 4,800円

 

時代小説の面白さって何だろう? ある歴史人物の一生を読み倒すのも、一人の時代小説家の作品を全て読破するのも面白いが、例えば歴史の中心からちょっとハズしたところにスポットライトを当ててみる。
で、『のぼうの城』である。「のぼう」とは「でくのぼう」の略称だが、成田家当主・氏長の従兄弟に当たる成田長親が「でくのぼう」では余りにも、ということで、ついたあだ名が「のぼう様」。さて領民から慕われているのか、見下げられているのか。しかし嫌われてはいない。
世は戦国時代真っ只中。何とものんびりとしたこのクニにも、例外なく戦の波は押し寄せてくる。豊臣秀吉の小田原城攻め、先鋒は若き日の石田三成である。北条家の庇護を受けてきたにも関わらず小国ゆえの悲しさ、豊臣方へ恭順の意を示していた武州忍城(おしじょう)。当主氏長が小田原城へ見せかけの加勢に出かけている最中、留守居役の長親はじめ側近の連中は、三成の名代・長束正家のあまりに不遜な振る舞いに我慢ならず、とうとう籠城を覚悟。五百対二万の合戦がはじまる。果たして忍城の運命や如何に…。
セリフ回しといい、展開のテンポの良さといい、今までの時代小説とは一味違うものを感じる。時代考証を無視しているわけでもない。ただ、のぼう様こと長親、その側近・丹波、酒巻、後々天下人・秀吉の側室となる甲斐姫らのキャラがかなり立っていて、エンターテイメント!
最近文庫化された『古城の風景T』は三河地方の四十もの城址、古城が紹介されている。やはりご当地の名所・旧跡、地名の由来が随所にみられ、親近感が自然と湧き、そこへ行ってみたくもなる。この地方は小城が多いゆえ、今まで埋もれていた史実や人物の逸話が丁寧に拾い集められ、文中の挿画も味わい深い。最終的に辿り着く先は、岡崎城。『風は山河より』を深く、読み応えのあるものにするエッセイである。
今からおよそ七〇年前といえば、昭和十年頃。その時代においてさえも、その瞬間を拾い集め、後世に伝え残そうとした人がいる。『奥三河物語』は現在製作中の段階で、今月下旬限定千五百部で刊行される。
設楽町出身の写真家でもあり、郷土史研究家の澤田久夫氏は、物置に残っていたものをはじめ、当時の村の様子まで片っ端からフィルムに収めた。そこに写っている村人の顔は誰もが微笑んでいる。なんとも言えない、いい顔をしている。世間では言論や思想の統制が強まり、二・二六事件、日中戦争とキナ臭い時代に突入しようかという頃である。また澤田氏は結核を患い、子どもと触れ合うことができなかった。そこで村に伝わる民話や昔話の絵本を自ら描き上げ、息子と娘に贈った。この四冊の、再現した貴重な絵本は本書の付録とされる。先日、中日新聞の記事として紹介されたこともあって、現在当店でも予約数が100冊を突破した。「今とはすべてが違った時代は、そう遠い昔ではありません」と、監修を務める鈴木富美夫さんの言葉。
 昭和時代が近年もてはやされるのは、もはや郷愁だけではなく、本来の日本人のあるべき姿を映し出しているからかもしれない。モノがなくて貧しくても楽しかった時代。モノが溢れ、心の病にかかる今の時代。ほどほどに良い加減な気持ちの余裕を大事にしたい、今日この頃。
 と、書き上げたところで、『のぼうの城』の第二弾、『忍びの国』が何気に机の上に乗っている。発行年月日を見ると五月三〇日。うーん出たばっかり。これはやっぱり紹介せざるを得ない。と、読み始めてみる。なるほど今度の舞台は伊賀なのね。〆切りは明日なのに、第二章わずか七十三ページ。夜更しもほどほどにしないと・・・。(中)



-------------働けど、働けど

『蟹工船』 小林多喜二‖著 新潮文庫 420円
 
 ニュースなどで御存知の方も多いと思うが、若者を中心にプロレタリア文学の『蟹工船』が爆発的に売れている。なぜ、いま小林多喜二なのか? 
昭和初期のオホーツク海。蟹を獲り、その場で缶詰に加工する工場船「博光丸」。貧しい学生や労働者たちが働き口を求めて集まった。鬼監督・浅川の下、厳しい環境で長時間労働、安い賃金の仕事をさせられる。彼らは、金持ち資本家に「物言えぬ労働者の末端」と見下された。がしかし、人間的な待遇を求め一致団結し、彼らは立ち上がっていくのだ。
今の日本は、「ワーキングプア」という深刻な社会問題を抱えている。まともに生活するのもままならない人たちが急増し、人間らしく生きるという最低限の権利が脅かされている。まさしくこれは、時代を超えた現代版の蟹工船がおきている状況なのだ。
最近ちょっとリッチに新車を購入したが、想定外のガソリン価格高騰。働けど、働けど僕の給料は愛車のために消えていく…。(田)


------------ちまたでブーム

『モノができる仕組み事典』 成美堂出版編集部 成美堂出版 1,470円
  
 先日、仕事で製紙工場に行った。工程を説明してもらいながらラインを見ていると、子供の頃のあのワクワク感が甦った。
 今回のオススメは、『モノができる仕組み事典』。日用品から旅客機まで、50種類の「モノ」が完成するまでの工程、構造やメカニズムなどが、オールカラーで分かり易く説明されている。
 例えば、N700系新幹線は柱も梁もない構造なのに、最高時速300キロで走る。その車体は、5000回以上の空力シミュレーションが行われ、速さ、快適さ、省エネまで熟考の上で作られている。
普段何気なく使っている「モノ」には、多くの人の努力、発想、技術が結集されている。本書で「モノ」作り大国日本の実力が十分わかる。
どうやら、ちまたでは社会見学がブームで、弊社カルミア店では、100冊以上売れている。
(大)


-------------変って言われるとうれしい?

『A型B型自分の説明書』 Jamais Jamais‖著  文芸社 各1,050円
 
  「B型って自己中だし変わってる」とか「A型って細かいし理屈っぽい」と、一般的に思われているが、はたしてその通りなのか?
この本は、それぞれの血液型の特徴を(自分の行動パターン)、(他人とのつきあい方)などの項目に分け、チェック形式で回答する構成となっている。
血液型の性格判断には根拠がないと言われているが、読めば読むほど笑いながらも否定し、ムカつきながらも納得してしまう。読んでよし、読ませてよし。自分を知りたい、自分の血液型以外の実態を知りたい人には、なかなかツボを抑えた一冊となるに違いない。
 ちなみに私はA型で嫁はB型、よく友人に「大変だね!」と言われる。お互いに読んでみて、笑いながらも夫婦の絆が少し強まった気がする。 (川)


-------------この師匠にしてこの弟子

『赤めだか』 立川談春‖著 扶桑社 1,400円

 古典落語の名手で、将来の名人として呼び声高い「立川談春」。
 変わり者「立川談志」に魅入られた「談春」は、十七歳で立川流に入門する。しかし立川一門は、寄席に出ることが許されない。落語協会から破門されていたからだ。それでも「談春」は、頑なまでに「談志師匠」にこだわった。
 青春の全てを注いだ前座時代。そして真打昇進。綴られた数々のエピソードは、どれもが面白い。  書名の『赤めだか』は、師匠が実際に自宅で飼っている(世話をするのは、弟子たち)。童謡じゃないけれど、自分は所詮「談志先生」率いる「めだかの学校1匹なのだと、謙虚さを表わしているのかもしれない(あるいは師匠をヨイショしているだけなのかも)。
クライマックスは、真打昇進を賭けた落語披露会。「談春」は、「談志」の度肝を抜く超サプライズゲストを仕掛けるが・・・。
最終頁の「談志」のセリフには泣かされる。オチは、涙。落語家なのに、反則(?)だ。  (池)



-------------その男、逃亡中につき

『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎‖著 新潮社 1,680円
 
読みだしたら最後。そう繋がりますか…と言わざるを得ない、時間を交錯させながらの絶妙な伏線。じりじりと迫りくる状況描写に易々と立ち止まることができない。
私をこの500ページもの、ずっしりと厚く、ディープな世界に引きずり込んだ男の名は、青柳雅春。現在失業中、元・配達ドライバー。特技は大外刈り、そこそこ二枚目な三十代優良(?)健康男子。
「オズワルドにされるぞ、おまえ」この一言を聞いた瞬間から、彼の逃亡劇が始まる!首相殺しの犯人に仕立てられてしまったのだ。ちなみにオズワルドとは、ケネディ暗殺の実行犯とされた人物。逮捕後、ジャック・ルービーという男によって銃殺。
そう、まさに、彼はそのオズワルドにいちばん近い男。本作では追いつめるジャック・ルービーが、国家と思しき組織やマスコミに置き換えられる。さまざまな不自然な事象が彼を取り巻き、行く手を阻む。
この見事な逃げっぷりを披露した青柳君。後日、本屋大賞の第一位を獲得!お見それしました。(天)


---------学力向上の秘密兵器

『楽しく学ぶ かず・かたちの図鑑』 黒沢俊二‖著 小学館 2,940円
『諸国物語』 ポプラ社 6,930円


 世界の文豪たちによる二十一篇を一冊に集約した『諸国物語』。一、一五二ページ、重さなんと2・1kg。難しいイメージのある世界文学だが、どっこい読んでみると案外味わい深い。名作が与えてくれる感動や面白さは、時代を超えても色褪せる事がない。だからこそトルストイやチェーホフが崇められるのだ。総ルビなので、ハリー・ポッターが読める子どもなら十分イケる。幅広い年齢層に読んで欲しい一冊だ。
『かず・かたちの図鑑』は、生活の中で数字と形に関わる事象を考え、思考力を自然に身に付けようという本。お金の数え方やハチの巣の形、はたまた、虫の大きさ比べや数字パズル、迷路・・・etc。とにかく子どもにとっては、お遊び感覚で楽しみながら、算数嫌いをなくすにはもってこいだ。
日本の子どもたちに足りないとされている読解力と思考力。活字離れのツケがココに現れた。ケータイやDSのタッチペンを持つ手に本を!本屋さんや図書館には、学力向上の秘密兵器がいっぱいある。(伊)